時の止まった世界で君は
一連の診察が終わると、なつは今度こそ二度寝をしようと布団に潜ろうとするので、それを制して起きていてもらう。
「少し大事なお話あるから聞いてくれる?」
そう言うと、眠そうでふわふわとしていたなつの動きが止まる。
病気の話をされると思ったのか、目には不安の色が浮かんで見える。
「これからの話なんだけどね…」
なつの様子を見ながら、出来るだけ何も無いのを装って話す。
「…簡単に言うと、なつの担当のお医者さんが変わることになったんだ。」
なつは、予想外という表情で、でも何を指しているのかだんだん理解してきたのかまた不安な表情に戻る。
「……ひろくん、やめちゃうの?」
「…医者はやめないよ。でもね、なつの担当を変わることになったんだ。」
なつはブンブンと首を横に振る。
「やだっ!なんでひろくんやめちゃうの!やだよっ!なつ、ひろくんじゃなきゃいや!」
……やっぱりそうなるか。
説得する方法はいくつか考えてきたけど、正直どれもあまり宛にはならない。
こういう時こそ、しっかりと真面目に伝えると案外すんなり行くものだったりする。
「…なつ、聞いて。」
「やだっ」
「お願い、大事なことなの。」
「やだっ!!」
そう言うと、なつは布団に潜ってしまう。
あーあ、やっちゃった。
なつは、このモードに入ると暫くは話を聞いてくれない。
でも、対処方法もなく、仕方なくダメ元でもう一度真剣なトーンで語りかける。
「なつ、本当にお願い。お話、聞いて欲しいな。大事なお話だからさ、なつにも知ってほしいの。」
ゆっくり、いつもより少し落ち着いたトーンで話す。
布団の中からは、スンスンと鼻をすする音が聞こえていた。