時の止まった世界で君は
なつの様子が気になり、看護師さんに頼み30分おきごとくらいで様子を見てもらっていた。

曰く、ご飯を食べたあとプレイルームに出てきてなつの好きな朝の教育番組を見たあと、しばらくプレイルームでいつも通り楽しそうに遊んでいたらしい。

でも、処置の時間が近づき、看護師さんに「トイレに行こう」と言われてから、様子は一変。

口を閉ざし、不機嫌な様子になってしまったようだ。

看護師さんの説得でトイレは済ませたものの、直前までプレイルームで遊んでいたいということで、俺が病棟に来た時もなつはプレイルームで遊んでいた。

「なつ」

そう声をかけると、なつはバッと顔を上げる。

その顔はには恐怖心や不安が浮かび上がって見えた。

「なつ、もうそろそろ時間だから一度お部屋戻ろうか。」

なつは無言で首を横に振る。

「いやはなしだよ。なつの病気治すために頑張るんでしょ?」

屈んでなつに目線を合わせつつ優しく問いかける。

すると、次第になつの両目にはじわじわと涙が浮かんでくる。

「なつ、終わったらまた遊べるからさ、少し頑張ろう?」

「…………やんない…」

注意していなければ聞こえなかったような音量でなつが言う。

「…嫌だよね。嫌なのはわかるよ。……でも、やんなきゃ病気治らないよ?なつは、病気治したくない?」

辛い二択をなつに迫っているのはわかる。

でも、これを乗り越えなければ、なつは病気を治すことができない。

だから、少し酷だけどこういう聞き方しか出来ないんだ。

「……なつ、ちゅうしゃ…いや…………」

「うん」

なつは、ぽつりぽつりと言葉を零していく。

「…いたいの、いや……」

「うん」

「………やりたくない……」

大人になれば、ある程度経験や必要性をわかっているから我慢をすることができる。

でも、小さななつにとって、治療はいつまでも怖くて痛いものなのだ。

やりたくなくて怖くて仕方ないけど、やらなくちゃいけないもの。

「……でもね、」

そう言うなつの顔は酷く苦しそうで、涙でくしゃくしゃになっている。

「…なつね、びょうき、なおさなきゃ……だめなの…」

「……なんで?」

「………だってね、なつね…またおそとであそびたいの。……あとね………ひろくんと…また……おでかけしたいから…」

そこまで言うと、なつは堰を切ったように大声を上げて泣き始めてしまった。

俺はそんななつを抱きしめて、背中をゆっくり大きく撫でる。

「うん、うん。そっか。またお出かけしたいんだね。」
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