時の止まった世界で君は
大きな泣き声は俺の心をギュッと締め付ける。

でも、それ以上に苦しいのはなつの方だと思うと、俺が悲しむ訳にはいかなかった。

「…頑張ろうな。また、遊びたいもんな。」

声をかけつつ大きく背中を撫でる。

なつはしゃくりを上げながら、コクンと頷く。

落ち着いたところで、なつを抱っこしたまま病室へ戻る。

ベッドに降ろしたなつは、見ているのが辛いくらい不安気で今にもまた泣き出しそうな顔をしていた。

「なつ、今日の治療のこともう1回説明するね。」

ベッドサイドの椅子に腰をかけて、ゆっくり話す。

治療の意味と効果、どんなことをするのか、副作用のこともできるだけ易しい言葉で説明する。

今日の髄腔内注射は、脊髄のなかに直接抗がん剤の薬を注射器で入れていく。

もちろん麻酔はするし、骨髄検査よりは痛くないけど、それでも少なからず苦痛が出てくる。

説明を終えると、当たり前だけどなつの顔はより一層不安気だった。

「…頑張れそう?もう少し待つ?」

今日の治療はなつの病室でできる。

だから、やろうと思えば看護師さんもいるし何時でもできるけど、あとはなつ次第だ。

なつがまだ怖いなら少し心の準備ができるまで待つし、もう終わらせたいなら早めにやってしまうこともできる。

「……やる」

その声はひどく小さくて、震えていた。

なつの頭に手をおき「よく自分で言えたね。」と撫でる。

なつはまた涙目になっていた。
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