時の止まった世界で君は
しばらくなつの背中を撫で、あやしているとなつは徐々に落ち着きを取り戻していき、熱と泣き疲れからか、またコテンと眠ってしまった。

ベッドになつを寝かせ、布団をかけてから起こさないようにそっと病室を出る。

医局に戻る途中、ナースステーションの横を通るとさっき連絡をくれた看護師さんと目が合い会釈をしてくれた。

俺も軽く会釈を返し、そのまま医局へ戻った。



医局に戻ると、数人の先生が帰る支度をしていた。

その中に、染谷先生の姿を見つけ、デスクまで歩いていく。

「染谷先生、お疲れ様です。」

「ん?ああ、瀬川か。お疲れ。何かあった?」

「なつみちゃんの事なんですが…」

今あったことをそのまま話すと、染谷先生は苦笑いをこぼした。

「…そっか、それは大変だったな。でも、珍しいな、なつがそんなことでごねるなんて。」

「そうなんですか?」

「うん。俺が知ってる限り、そういうことはあんまりなかったと思う。なつはすぐ我慢するし、まあそうせざるを得ない環境だったってのもあるんだけどさ。きっと、担当の先生が変わったから、それを試す気持ちがあったんじゃないかな。」

そう言われて、ドキッとする。

もし、そうだったとしたら俺はなつにとって正しい行動を出来たのかな…

「瀬川がどれだけ甘やかしてくれるか、とかどこまでわがままを言ったら怒るか見てたんじゃない?まあ、単純に久しぶりの治療で嫌になっちゃったってのもあると思うけどね。」

「…そうだったんですね。俺、大丈夫だったかな……」

「まあ、医師として正しい行動を取れたと思うなら、それでいいんじゃない?」

そう言われて、少しほっとした。

なつにとって今何をすることがベストか、説明してあげることができたから。

まだ納得はできなくても、教えてあげることは出来た。

少しずつ理解してもらって、一緒に頑張って行くことがベストだと俺は思うから。
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