時の止まった世界で君は
参ったな……

染谷先生は手術で少なくともあと1時間は戻ってこられないし…

「…どうしても、謝りたくない?」

「……うん」

「そっか。」

でも、ここで謝って仲直りするのが筋だよね…

男の子に何を言われたのかわからないけど、突き飛ばしちゃったのはなつみちゃんが悪い。

悪いことは悪いって伝えなきゃ行けないけど…

でも、どうにもさっきの言葉が引っかかった。

"なつ、変じゃないもん"

"変"とはどういうことだろう……

文字通り、男の子に"変だ"と言われたのなら、その言葉がなつみちゃんを酷く傷つけたのかもしれない。

ここで、なつみちゃんを一方的に責めたり、無理やり謝らせたりするのはだめな気がした。

たった数日しか、なつみちゃんとは関わっていないが、この数日でなつみちゃんがあんな顔をするのは見たことがなかった。

なつみちゃんは、見た目の割に喋り方が少し幼いけど、むしろみんなに可愛がられて、看護師さんや他の先生ともすぐに打ち解けていつもにこにこと話していた。

そんななつみちゃんのさっきの表情。

すぐに走り出してしまったから、一瞬しか見えなかったけれど、酷く辛そうな顔をしていた。

病室に戻ってきてからも、ずっと泣いている。

そして、たまに思い出したかのように何か呟いているが、内容までは聞き取れなかった。

手術中なのは承知の上、染谷先生に連絡を入れておくことにした。

正確には、オペ室に連絡をして染谷先生に伝言してもらう形になるが。

正直、どう動いていいかわからなかった。

男の子の様子も気になるが、なつみちゃんのそばを離れるのも心配だ。

仕方なく、俺は染谷先生の到着を待つことにした。
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