時の止まった世界で君は
「先生っ、小児病棟からです」

「…っ、手離せないから出て」

まじか、またこんな時に……

急患の子どもの処置中、しかもこっちは早くしないと命に関わるか、もしくは重い後遺症が残ってしまう可能性のある一大事なのに…

ただでさえ、既に患者は意識を失っている。

何としても、早く異物を取り出さなきゃ…

「なつみちゃんが目を覚ましてから泣き続けて、呼吸が危なくなりかけてるので指示を仰ぎたいそうです。」

「……わかった。ちょっと、まって…」

ダメだ、なつの方も放っておくと危なくなりかねない。

でも、こっちも離れられないし…

どうしよう、どうしようこういう時は…

俺が手が離せなくて、染谷先生もいない時……

「新生児科の妹尾先生が居るか聞いてください。居たら、なつみちゃんの所に行ってもらうようにも。」

「わかりました。」

頼む、妹尾先生いてくれ……

なつのことをよく知ってて、なつの対応をわかってるのは妹尾先生と染谷先生だけ…

染谷先生は、帰宅したから今から呼び出しても到着が遅くなる。

「妹尾先生いらっしゃるそうです。行ってもらうよう伝言もしました。」

「うん、ありがとう。」

よかった、これで完全にこっちに集中できる。

何度目かの人工呼吸、気道の確認、異物は…

「…あった。」

ゴム手袋を嵌めた手を慎重に伸ばす。
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