時の止まった世界で君は
「…ごめん、さっきは熱くなりすぎた。」

「いや、俺の方こそ。…幡也がなつのことすごくよく考えてくれてるのはわかるんだ。俺も、なつにとって辛いことは出来れば全部取り除いてあげたいし守ってやりたい。……でも、今のままは本当にリスクが高いんだ。…俺たちが、なつの居場所を奪ってしまったら本末転倒だろ?」

複雑な思いが胸を駆け巡る。

なつのことは助けてやりたいけど、それが俺らのエゴだったら…

それこそ、受け入れを拒否されてなつの行く場所を無くしてしまったら、ありがた迷惑にも程がある。

「……うん。………ごめん。少し俺も取り乱してた。…久しぶりになつに会ったのに、なつがすごい辛そうだったからさ……。病気的な意味だけじゃなくて、心もしんどそうだったから…心配になったんだ。」

寂しそうに笑う幡也に胸が痛くなる。

「……少し様子を見させてくれないか?俺も、なつから少し話を聞いてみる。それで、どうしても施設にいる事がなつへ悪影響ばかりなら、転所を考えよう。」

「…そうだな。それがいい。」

さっきの医局での勢いは何処へやら、屋上に来るまでにすっかりお互い頭が冷えて同時に気も沈んでいた。

「……俺もまたなつの病室に顔出すよ。昼間に行ったら、喜んでくれるかな。」

「うん。きっと喜ぶ。」

「そっか。」

意見がすれ違うことがあったとしても、俺らの願いは同じだ。

なつに幸せに暮らしてもらう。

笑顔いっぱいで生活してくれればなんでもいいんだ。

親心というか、なんというか…

幼い頃からなつを見てきた俺らにとってなつは俺らの子ども同然の存在だったから。
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