時の止まった世界で君は
久しぶりに読む絵本はなつだけでなく、俺の心まで気持ちを穏やかにさせた。

優しい絵のタッチと何気ないストーリーが心地良い。

「『バイバイおやすみまた明日。』」

読み終えてパタンと絵本を閉じた頃には、いつの間にかなつは眠りについていた。

さっきまでの苦しそうな表情も少し穏やかになっている。

俺は安堵のため息をついてからなつの頭をそっと撫でた。






絵本をプレイルームに戻してから、今度こそ寝ている間に薬を入れてあげられると思い足早にナースステーションに解熱剤の注射を取りに行く。

「お疲れ様です」

交代で夜勤で入ってきた数人の看護師さんに声をかけつつナースステーションに入ると、奥の電子カルテの前に見慣れた背中を見つけた。

「染谷先生、お疲れ様です。」

「ん?ああ瀬川か、おつかれ。瀬川は今日夜勤か?」

「いいえ、今なつを寝かしつけてきたところなんです。だから、これから解熱剤入れ終わり次第帰ろうと思って。」

そう言うと、染谷先生は少し悲しげに微笑んだ。

「なつ、今日辛そうだったもんな。俺が言うのも変だけど、本当にありがとう。やっぱりお前に託してよかったと思うよ。当たり前のことだけどさ、患者さんのこと心から大切に考えて動いてくれる医師って案外少ないからさ。…嫌な言い方だけどさ、お金のことばっかり考えてるやつも少なくないじゃん?だから、本当に有難いなって思うんだ。」

「……俺は、患者さんにとっての最善を考えて尽くすまでです。逆に言うと、俺たちはいつだって患者さんの病気を治す手助けしかしてあげられない、結局最後は患者さんの体次第なので。だから、それくらいしないと病気を治したいと願う患者さんに失礼かなって思うんです。」

言ってから少し照れくさくて顔が熱くなるのを感じる。

でも、染谷先生は少し驚いた表情をしてから今度は満足気に頷いた。

「うん。改めてお前に任せてよかったって思ったよ。なつの主治医が瀬川でよかった。ああ、あと今日は俺夜勤だからさ、解熱剤俺が入れておくよ。俺もなつの顔見たいしね。」

染谷先生に認められた気がして、自分の信念が間違ってなかったことに安心した。

今日はお言葉に甘えてそうさせてもらう事にしようかな。

「じゃあ、お願いします。」

「うん。任せて。」

いい上司を持ったなと改めて感じた。
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