時の止まった世界で君は

宏樹side

そっとなつの部屋に入ると、なつは久しぶりに安心したような表情で眠っていた。

ここ数日、険しい顔ばかりみていたから少し驚いた。

瀬川、どうやったんだろう。

感心しながら薬を入れる準備をしていく。

起こさないようにそっと腕を取り袖をまくる。

注射器の準備と消毒を済ませ、できるだけ痛くならないようにと気をつけながら針を刺す。

同時に、寝ている間は動いてしまう可能性も高いのでできるだけ早く済ませる。

「…………ん、んぅ…」

薬液を全て入れ終わり、針を抜いたところでなつがうっすらと目を覚ました。

やっぱり起こしちゃったか

止血をしつつなつの頭をやさしく撫でる。

「…ひろくん、だあ………」

まだ寝ぼけた様子のなつは注射に気付いていないのかグズる様子はない。

「ごめんね、起こしちゃった?でも、まだ眠いしょ?トントンしてあげるからまた寝ようね。」

そう言ってなつのお腹の辺をいつものようにトントンするも、なつはすぐには目を閉じずこちらを見ている。

「……どうした?」

「…ん………あのね、なつ、だっこしてほしい。ひろくんのだっこ。」

なるほど。

なつはしんどい時とか眠い時によく抱っこを求めてくる。

体温が伝わって安心するのかわからないけど、そうすると不思議とすぐに眠ってくれるんだよな。

手を伸ばすなつを抱き上げて背中をなつの呼吸に合わせてさする。

「……なつ、ね…きょう、いっぱいがんばったの。ずっと、おねつとぐあいわるいで、くるしかった……でもねなつ、いっぱいがんばったよ。くるしいけど、なおさなきゃ、だから、がんばった。」

「うん。そっか。いっぱい頑張ったんだね。偉いねなつは。すっごく偉い。いい子だね。苦しいけど、きっとその分すぐ良くなるからね。大丈夫だよ。なつの頑張りはちゃんといい事に繋がるから。」

俺の肩に顔を埋めているなつの頭をそっと撫でた。

それは願いでもあると同時に誓でもあった。

きっと、病気治してみせるから。

もう少し頑張って腫瘍小さくしたら手術で取り除ける。

なつにはまだもう少し苦しい思いさせちゃうけど、絶対元気にするからね。

元気になったら、また一緒にお出かけしような。

なつの好きなとこどこでも何回でも。

沢山楽しいことしような。

頑張った分沢山なつがして嬉しいことしような。

はやくよくなりますように。

そう願いを込めながら背中をさすり続けた。
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