時の止まった世界で君は
直近の検査では写っていなかった明らかにおかしな影がハッキリと写っている。

「……やっぱり…、吐き気と頭痛は副作用のせいだけじゃなかったってことか……」

「…正直、染谷先生が指摘してくださるまで気付きませんでした……。意識障害が出る前でよかった…。」

水頭症は脳に何らかの原因で水が溜まってしまう病気、その水が脳を圧迫するため嘔吐、頭痛、歩行障害などの症状が出る。

脳腫瘍がある子の場合、水頭症が併発することは決して珍しくはない。

でも、今回はこの前の検査で写っていなかったこと、抗がん剤の副作用で吐き気が隠れてしまっていたこと、最近はほとんどベッドで横になっていたため歩行障害に気付けなかったこと…

それで見落としていた……

先生が指摘してくださらなかったらもう少し進行して意識障害が出てから初めて気付いていたのかもしれない…

「うん。…まあ、俺も今回は偶然だよ。なつがナースステーションに来ていなかったら多分気付けていなかった。……でも、今はそれより治療が最優先だ。治療方針、どうする?」

俺は様々な考えを脳内で巡らせた。

水頭症の治療と腫瘍の治療を並行させるには……

「まず、水頭症の治療が優先されます。そのため、一度抗がん剤を中止して、オペで長期留置型の脳室ドレナージを設置、その後回復をみて放射線治療で腫瘍へアプローチします。」

「理由は?」

「まず意識障害に繋がる恐れがあるので水頭症の治療は最優先です。治療法ですが、シャント術だと脳内の悪性腫瘍の細胞が腹腔へと移動する可能性が高いので長期留置型の脳室ドレナージを選択しました。腫瘍へのアプローチは、ドレナージを設置した状態だとどうしても感染リスクが高くなるため、免疫力を著しく下げる抗がん剤は中止し、放射線治療一本に絞った方が良いと判断しました。」

これが俺の持ってる最適解

しかし、染谷先生の表情は硬いままで少し緊張する。




「……うん。俺も、それがいいと思う。」

その言葉にほっとして肩の力が抜ける。

「……なつはきっと嫌がるだろうけど、説明しなきゃな。」

そう苦笑いした染谷先生の表情はどこか不安げに見えた。
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