時の止まった世界で君は
「……ん、んう……………」

今日の業務は手術以外にはデスクワークだけだったので、なつの隣にパソコンを持ち込み仕事をしていると、目が覚めたのか微かに声がした。

「なつ……?」

起きたのかどうか確認するために呼びかけるとなつはゆっくりと瞼を開いた。

覚束無い焦点が段々と定まっていき俺を見つめる。

「……ひろ、くん…」

呼吸器を入れていたせいで掠れてしまった声で俺の名前を呼ぶ。

「なつ」

俺が呼び返すと返事をするようになつは大きく1度瞬きをする。


…………嬉しかった…

さっき、なつが戻ってきたのを確認し、安心したと思っていたけど、違ったみたいだ。

なつが目覚めたのを確認して、本当に心の底から安心した。

肩から力が抜けて、ついでに涙腺まで緩んでしまう。

「なつ、よく頑張った。本当によく頑張ったね。偉かったよ。」

涙ぐみながらなつの肩をゆっくりと撫でる。

そうすると、なつは嬉しそうに目を細めた。

「…なつ、がんばった。ひろくんと、また、おそといきたくて、がんばったんだよ……」

か細い声で"頑張った"といい微笑むなつは本当に愛おしくて、健気で俺は涙を流しながら笑ってしまう。

「なつは本当に頑張り屋さんで偉いね。早く病気治して沢山外行こうな。なつの行きたいところ沢山連れて行ってあげるからな。」

「…ほんと…?…やったあ、じゃあなつ、どうぶつえん、いきたいなあ……」

「うん、動物園行こう。なつの好きな物もいっぱい食べて好きなこと沢山しような。」

「うん……!」

ああ、よかった…

本当によかった……

またこうやって笑顔のなつがみれた。

楽しいこと想像して笑顔になれた。

まだ、病気との闘いは中間地点だけど、もしかしたら中間地点にすら届いてないかもしれないけど、なつとこうやって話していると、きっと直ぐに勝てるんじゃないかって思ってしまう。

難しい病気だけど、辛い治療もまだ残っているけど、それを忘れさせてくれるくらいなつの笑顔の力は凄かった。

ずっとこの笑顔を守りたいって改めて強く心に感じた。
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