時の止まった世界で君は
人があまり通らない所へと場所を替え、事情を幡也に説明した。

「………………」

今までの経験からして99%ブチ切れると思っていた幡也は予想に反し冷静な様子だった。

「……珍しいな、怒らないの。…てっきり、キレてると思ったよ。」

少し茶化すように言うと、またもや幡也らしくない力のない笑いが返ってきた。

「俺も意外。…………最初さ、なんか嫌な雰囲気感じた時はキレるかなって自分でも思ってた。……でもさ、…………なんというか、……あまりにも…酷すぎて。…………なつが、小さい子と混じって遊べないのはしょうがないのかもしれない、でもさ…、態度とか、なつだけ排除するような物言いとか、それはいくらなんでも、……違うよね。ちょっと、想像以上に酷い扱いでびっくりしたし…なつの事思うと、怒りの感情よりも……悲しくなった…」

幡也はそう言ってまた悲しげに微笑んだ。

「……俺さ、なつのこと比喩じゃなくて本当に、生まれた時から診てるわけじゃん?なつ、こんなに小さくて…、その時は数年後はおろか、明日生きているかどうかも怪しかったくらいでさ。お前も覚えてるだろ?」

「ああ。」

両掌より少し大きいくらい、予定よりもだいぶ早く産まれてしまって、さらに先天的な障害もあった。

俺ら医者がどれだけ手を尽くしたとしても、明日この子が確実に生きている保証はできないってくらい、危ない状態だった。

「そんな子がさ、俺らの心配なんて杞憂だったみたいにこんなに大きくなってさ、しんどいことも試練も沢山あった、なんなら今もその途中だけど、でも…それでも俺、嬉しくてさ。なつの笑ってる顔見ると、"ああ、あの時頑張ってよかったな"って思えるんだよ。だから今も…手術終わって、なつ、また頑張ったんだなって、怖いのに、痛いのに……頑張って偉いなって、それだけで泣きそうなのにさ。………なつ、こんなに頑張ってるのに…、なんか……こんなんじゃ…報われないよな……」

パタパタと幡也の両の眼から水滴が落ちた。

「……ごめん、らしくないな。…見なかったことにして。」

「…おう。……俺も、同じ気持ちだから大丈夫。」

そう言いつつ、俺もまた泣きそうになっていた。

いい大人が2人揃って泣くとかカッコ悪すぎるから、さすがに堪えたけど

……でも、それくらい俺らはなつに対して真剣だし、大切で大切で仕方ないんだ。

だからこそ、なつが理不尽に傷ついているのは許せなかった。
< 79 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop