時の止まった世界で君は
そして、翌日。

なつみちゃんは昨日のことなど忘れたように、元気いっぱいに退院していった。

病院には、施設の人が迎えに来て、染谷先生はその日ずっとそわそわしていた。

荷物の忘れはないか、薬はちゃんと持ったか、お母さんのように細部まで確認していた。

きっと、とても心配なんだろう。

でも、誰よりも長い付き合いだからこそ、親心というか、心配も出てくるんだろう。

退院の時、染谷先生の他にもう1人先生が見送りに来ていた。

「あ!はーくん!」

「久しぶり~。なつが退院するって聞いたから、仕事抜け出して来ちゃった。」

「えー、お仕事サボったらダメだよ!」

あの先生も、なつみちゃんと仲が良いみたい。

でも小児科では見たことない先生だけど…

「妹尾幡也(せのお はたや)。俺の同期で、新生児科。なつが産まれた時の主治医。産まれた時からなつを一緒に診てきたやつ。」

そう言う染谷先生は、安心したような表情を浮かべていた。

「…よかった。昨日のこと、引きずってないみたい。」

妹尾先生と話しているなつみちゃんは、いつもの倍元気でぴょんぴょん飛び跳ねて笑っている。

きっと元気ななつみちゃんの姿が、誰よりも嬉しいんだろうな。

「なつ、良かったな。」

わしゃわしゃっと髪を撫でられたなつみちゃんは、きゃっきゃと喜んでいて本当に微笑ましい。

その景色は幸せそのものだった。
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