時の止まった世界で君は
数日後

俺は休みを取り、なつの施設に足を運んでいた。

施設のチャイムを鳴らすと、何度か会ったことのある優しげな男性の施設長さんが顔を出した。

「こんにちは、突然すいません。」

「ああ、染谷先生!どうされました、まあ、とりあえず中入ってください。」

お言葉に甘え施設の中に通してもらう。

施設は前来た時と同じように清潔で、優しげな雰囲気だ。

小さな子ども達が楽しげに遊ぶ声も聞こえてくる。

「先生、どうされましたか。なっちゃんに何かあったんでしょうか…」

「……いや、なつに部屋にある玩具を持ってきて欲しい、と頼まれまして。なつの部屋に行ってもいいでしょうか。」

本来の目的を言わないのは少し気が引けたが、言ってしまうとわざと隠されてしまうかもしれない、と少し疑心暗鬼な気持ちで嘘の理由を言ってしまった。

「そんなことでしたら、電話してくれたら持っていきましたのに。わざわざありがとうございます。最近のなっちゃんの様子はどうですか?」

部屋へ案内してくれる施設長さんの後ろを雑談しつつ着いていく。

それと同時に、周りの職員の空気や子どもたちの様子も伺うが、特にこれといって変わった様子はなかった。

そのうち、廊下の突き当たりまで行き着きそこで施設長さんは足を止める。

「なっちゃんのお部屋です。なっちゃん、人に物を触られるのをあまり好みませんから、多少散らかってるかもしれませんが…」

「ありがとうございます。お邪魔します。」

なつの部屋は少し薄暗く、もの寂しげな雰囲気だった。

窓はあるが、あまり日が刺さないようで昼間なのにも関わらず夕方のような薄暗さだ。

とりあえず部屋に入って、なつの好きそうなものを何個か持って帰ることにする。

机の上にあったぬり絵とクレヨン、それから前の入院の時に持ってきていたおそらくお気に入りであろうパズル、あとは…

部屋を見渡すとあるものが目に付いた。

枕元にちょこんと座る使い古したクマの人形。

「ああ、それ、この前持っていかせようと思っていて忘れてしまったんです。なっちゃん、それがいたくお気に入りでして、どこへ行くにもいつも持っていたんです。」

昔、なつがまだ4、5歳の頃俺がなつにプレゼントしたものだった。

その時は大喜びしてくれて、寝る時もずっと抱きしめて寝ていたけど、今もそうだったとは…

「じゃあ、これも持っていきますね。」

くたびれてしまった人形も持って帰る用の袋に入れる。

こんなボロボロなのにまだ大切にしてくれていたんだ。

今度新しいのを買ってあげよう。

なんて思いつつ、改めて部屋を見渡す。

その時、あることに気づいた。
< 80 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop