時の止まった世界で君は
「なつの部屋、一人部屋なんですね。」

何気なしにそう言うと、施設長さんはピクリと反応し気まずげな表情を浮かべた。

「施設って、二人部屋か三人部屋がほとんどだと思ってたので…」

そう言うと、施設長さんはさらに気まずそうに頭をポリポリとかく。

「実はですね……」





施設長さん曰く、なつはあまりこの施設でも上手くやれていないようだった。

前までは二人部屋だったけれど、同室の子が"同じ部屋にいるのは嫌だ"と言って部屋替えを申し出たらしい。

「なっちゃんと同い年の子たちはもう受験期ですから、少しピリピリしてるんです。それで、勉強している時に隣で遊ばれると集中出来ないと言われまして、それもそうかな、と。」

そう言われて、俺はまた虚しい気持ちになった。

仕方の無い話ではある、理由も理解出来る、でも、だからこそ、上手くいかない現状が悔しかった。

「もう少し、下の歳のこと同じ部屋にするっていうのはないんですか?」

「それは……」

その時の施設長さんの表情や言葉の詰まり方で、俺はうっすらと察してしまった。

これはきっと、他の学年の子たちからも厄介がられてるな、と。

「職員たちは大人ですから、障害のある子の理解はできます。ですが、小学生や中学生の子たちは、まだやはり自分と何か違う人間を上手く受け止めることが難しいんです。」

そっか……

思い返してみると、俺らが小学生や中学生だった頃もそうだったかもしれない。

特に何も思わない子もいるだろう、理解を示せる子も。

でも、大半はそうではなかった。

改めて、なつのこの問題が、解決が難しいことだと実感した。

大きなため息が口から漏れた。
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