時の止まった世界で君は
「……すいません、もう正直聞かせてください。」

もう、隠して少しずつ探り探りなのがもどかしくて俺は施設長さんに直接聞くことにした。

「実は……、今日施設に来た本当の目的は…なつの物じゃないんです。本当は、施設の様子を見に来ました。」

「…様、子……?」

「はい。単刀直入に言いますね、実は、なつがここの職員さんのことを酷く恐れているんです。」

そう聞いた途端、施設長の顔に明らかに焦りの表情が浮かんだ。

「…施設長さんなら、なつの人懐っこさを良く知っていると思います。……なつは、事情こそ沢山抱えているけど、いつも人懐っこくて人が好きで、知っている人には積極的に声をかけたり遊んでもらったりしています。なつが人を恐れるのを、少なくとも僕は一度も見た事がありません。トラブルなどで苦手に感じた人や、自分に敵意を向けてくる相手にはなつは自分から距離を置きます。……そんななつが、施設の職員さんに怯えを示しているんです。」

施設長の顔からどんどん血の気が引いていく。

「な、何かの間違いでは……?」

「間違いで、"めんどくさい" "邪魔"って言われるって夜に泣き出すでしょうか。"先生が怖い"って怯えて泣き出すでしょうか。」

「…………」

施設長は焦りながらも、どこか困惑と悲しみを交えたような表情になっていく。

「施設長さん、正直にお願いします。あなたは、この状況を把握していましたか?」

「…………」

少し間を置いて、施設長は弱々しく首を横に振る。

「……すいません、最近長く施設を空けていたもので…」

……やっぱりか、という感じだった。

施設長と話している時から、施設長からは子どもに対する悪意や障害をもった子たちに対する差別などは感じられなかった。

むしろ、子どもに関しては愛情と優しさばかり見えるような人だ。

悪事を知っていて見過ごすタイプでもないだろう。

とすれば、単純に知らなかった、が一番納得がいく。

施設長については、単純な施設の管理不足か……

あとは当事者の職員についてだけど……
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