時の止まった世界で君は
コンコンッ

「なつー、入るよー」

「はーい」

病室に入ると、なつは元気そうな様子で机に向かって色鉛筆でお絵描きをしていた。

「体調はどう?見た感じ元気そうでよかった。」

「うん!なつ、げんきだよー!でもね、なつげんきなのに、先生ベッドにいなさいっていうの。なつプレイルームいきたいのにだめっていう。」

そう不満げに頬を膨らませるなつは、確かに元気な力が戻ってきているように見える。

拗ねられるくらい心の面でも元気が戻ってきたな。

「んー、だってなつ手術終わったばかりでしょう?まだ糸も抜いてないし、プレイルーム行くにはまだ少し時間がかかるんじゃないかな?」

「そーだけどさー、ひとりであそぶのつまんない」

口をとがらせて手元で色鉛筆を弄るなつからは不満の気持ちが伝わってくる。

「まあまあ、もう少し待ちな。あと少し回復したら、瀬川先生も次の治療前に遊べる期間くれるかもしれないよ。」

不満げななつを宥めて、椅子に腰掛けたところでそういえば、と持ってきたもののことを思い出す。

「そーだ、なつにお土産あるんだった。」

"お土産"という単語を聞いた途端、さっきまで拗ねた様子だったなつの目が輝く。

「おみやげ!なに!なに!」

「はいはい、ちょっとまってねー」

そう言いつつまず施設から持ってきたなつの私物を机の上に出す。

「あ!これ、おうちにおいてきちゃったやつ!ひろくんもってきてくれたの?」

そう言ってなつは嬉しそうにクマのぬいぐるみを抱きしめる。

「まだ喜ぶのははやいよ。実はまだお土産があるんだな~」

「え!なになに!まだあるの?」

「じゃーん」

そう言って俺は本屋で包装してもらった絵本をなつに手渡す。

「わ!プレゼントだ!やったあ!なにはいってるのかな?」

目をキラキラさせて包装紙を破るなつ。

「あー!えほんだ!これなつのすきなやつ!やった!やった!これ、いいの?」

「もちろん、いいよ。手術も治療も頑張ってるからね。」

「うふふ、やったあ、なつえほんすき!」

そのなつの笑顔は本当に幸せそうで、買ってきてよかったなあと思える。

「せっかくだし今日寝る前に読み聞かせしてから寝ようか。」

「うん!うふふ、ひろくん、ありがとう!」

「どーいたしまして。」

この笑顔が見れるなら、いくらでも絵本くらい買ってしまいそうになるのは、少し親バカがすぎるかな。

そう思いつつ、俺まで幸せな気持ちになった。
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