時の止まった世界で君は

星翔side

んー、っと腕を伸ばす。

日中のカルテの入力を終え、時計を見ると、もうそろそろ夜の回診の時間だ。

一人ひとり、ざっとカルテに目を通し、まわる順番と話す内容を大まかに決めておく。

最近は、受け持ちの患者さんたちの容態もかなり落ち着いている人が多い。

今日は退院やうれしい報告ができる人が多そうだ。





一通り病室を回り終え、最後になつの病室に向かう。

廊下を進み、部屋の前につくと、病室の中から何やら楽し気な声が聞こえてくる。

コンコン

「はーい」

「夜の回診でーす、お邪魔してもいいかな?」

部屋に顔を覗かせつつそう聞くと「えー、もうすこしあとじゃだめー?」といつにも増してはしゃいでる様子のなつと、その元気の理由であろう染谷先生がいた。

「こら、ちゃんと診察は受けなきゃだめでしょ。瀬川先生も忙しいんだよ?」

「えー、だってぇ……」

「続きはまたあとで。ほら、はやく元気になるんでしょ?」

染谷先生がそういうと、なつは渋々といった様子で布団を捲って用意をしてくれた。

「ありがとう。はやく終わらせるからね。」

いつもの診察と傷口の確認をして宣言通り手早く終わらせる。

「うん。問題ないね。これなら、明日か明後日には糸も抜けるかな。」

「えーー、なつそれきらーい」

と不満げな表情のなつ。

「まったく、なつは昔から抜糸苦手だよなー」

染谷先生はその様子に慣れっこなようで、苦笑いだ。

本来なら、嫌だと宣言されることをするのは少し気が引けるが、今日はちがう。

今日はなつにも良い報告ができる。

「そっかー、……でも糸抜くの頑張ったらさ」

染谷先生に目線を送ると、俺の意図した事が伝わったようで染谷先生も笑顔になる。

「1日だけど、次の治療の前に外出の許可出してあげるよ。」

「………え?」

「よかったな、なつ。久しぶりにお外に遊びに行けるって。」

染谷先生の大きな手でなつの頭を撫でると、なつは段々理解してきたようで驚きから満面の笑みに変わっていく。

「おでかけ?おでかけ!…なつ、おそといけるの!」

「うん。さすがに、少し制限はつくけど久しぶりだし、できるだけ好きな所行けるようにしようね。」

満面の笑みのなつは、もっとはしゃぐかと思ったが、予想に反してはしゃぎはせず喜びを噛み締めているようだった。

でも、なつが喜んでくれているのはすごく伝わってきて、こっちまで嬉しくなる。

「ひろくんは!ひろくんはいっしょ?」

「一緒がいいの?」

「うん!!」

笑顔で即答したなつに、染谷先生は照れたように笑った。

「じゃあ俺も、休み取らないとなー」

「ふふっ!やった!ひろくんもいっしょ!」

「ああ。なつが、頑張ったからだね。よかったな。」

染谷先生の安心したような笑みと、なつの心の底からの嬉しそうな顔。

とても微笑ましいやり取りに、思わず笑みがこぼれた。
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