時の止まった世界で君は
また
それから4年
なつは病院に戻ってきていた。
原因は、再発
もともと小児ガンは再発率が高く、なつもその中の一人となってしまった。
再発が見つかったのは、3ヶ月前。
「瀬川、ちょっといいか。」
「はい。」
久しぶりに、染谷先生に呼ばれ少し驚きつつも返事をして染谷先生のデスクに向かう。
研修医1年目の各課をローテーションしていた時は、染谷先生が指導医として着いてくださった。
2年目の専門研修で再びここに戻ってきた時にも染谷先生にはお世話になったが、2年目は、その時に知り合った清水先生と関わることが多く、臨床医としてここで働くことになってからも、専ら清水先生の指導を受けていた。
…だから、顔を合わせたりすることはあっても直接呼ばれるのは本当に数年ぶりだった。
元々、とても腕が良いと評判のあった先生だったからどんどん昇進していき、今では小児科副部長だ。
それで、まだ若手の俺なんかじゃ近付きにくかったというのもある。
「突然呼んじゃってごめんな。今、時間大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。どうされましたか。」
そう言うと、染谷先生は少し神妙な顔つきでパソコンを操作しデータが載った画面を開いた。
「これは…」
「4年前に退院した、なつって覚えてるか?」
「ああ、染谷先生が気にかけていらっしゃった子ですよね。」
「うん。」
話の流れで、なんとなく嫌な察しがついてしまった。
「…この前の定期検診で異常が見つかってさ、まだ精密検査はしてないんだけど、恐らく……というか、ほぼ確定で再発しちゃったんだ。」
そっか、なつみちゃん戻ってきちゃうんだ。
『もうここに戻ってこなくなればいいんだけどね。』
そう言った染谷先生の表情が思い出される。
染谷先生は誰よりもなつみちゃんのことを気にかけていらっしゃったから、きっと今もとても辛いのだろう。
表情がそれを物語っていた。
「それでさ、検査の補助頼めないかなって。なつも、1回会ったことある先生だから、安心できると思うんだ。」
そう言ってニコリと微笑んだ染谷先生の目は、少しも笑えていなかった。
そうだよね…10年以上も傍で関わってきて、入院中もほぼ毎日会っていたんだものきっと家族同然の関係なんだろう。
不安だし、心配なのだろう。
「はい。わかりました。」
俺はできるだけ元気に返事をした。
時間のかかる検査ではないが、患者さんの心に大きく負担をかける検査だ。
それを見ている先生も、辛いだろう。
なつみちゃんだけじゃなくて、染谷先生もサポート出来るように、精一杯頑張らなくちゃ。