時の止まった世界で君は
「ひろくんみて!いるか!!」

「ひろくん!!ぺんぎんさんだよ!!!」

「ねえ、ひろくん!!つぎ あざらし!!」

一切の曇りのない笑顔が眩しい。

疲れを知らないようなはしゃぎっぷりに、半ば呆れていると、同じく困ったように笑う瀬川と目が合った。

「すごいですね、なつの元気は。」

「そうだなー。どこにその体力隠してたんだか。」

病室であんなに小さく、力なく見えたなつがここまで元気を出せるんだ。

なんていうか、外の世界の力は凄いな。

「この姿を見ていると、また連れてきてあげたいって思っちゃいますね。」

「うん。はやく、辛い治療なんて終わらせて何度でもこういう所に連れてきてあげたいよ。」

楽しい時間は永遠ではない。

水族館に来た時から刻々と、楽しい時間の終わりは近付いている。

帰ったら、また、しばらく辛い時期が続く。

帰りは、なつに泣かれるかな、と思うと仕方ないとはいえ、胸がキュッと締め付けられる感じがした。

「……先生は、本当に、なつのこと大切に思っているんですね。」

その言葉に顔を上げると、瀬川はとても優しい顔をしていた。

「俺、先生となつの姿見てると、たまに本当の親子なんじゃないかって錯覚しちゃいます。それくらい、なつを見つめる先生の眼差しは本物だし、暖かいなって思うんです。」

俺となつが、親子……

その言葉が妙に心にストンと落ちた。

「…ありがとう。そう言って貰えると、すごく嬉しい。」

自然に笑みが零れた。
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