愛は惜しみなく与う⑥
こいつはきっと
あたしが絶望しているところを見るのが好きなんや。

その後何も言えなくなった
聞きたいことももっとある。殴り飛ばしたい気持ちもある。

でもそれをしても、サトルに痛みや苦しさを感じさせることは出来ない。



欲しがってなにが悪い

そう最後に笑ってみせた





そして、ずっと黙っていた泉が口を開く


「杏はモノじゃない」

「そんなのは知ってる」


「知ってる?知ってたらこんな事できない。欲しいだなんて言わない。モノ扱いするのは知らないのと同じだ」


泉はサトルとの距離を30センチほどまでに詰めて、泉と同じくらいの背丈のサトルを睨みつけた



「モノなら欲しけりゃ買ったり、譲ってもらったり、手に入れる手段を考えればいい。でも杏はモノじゃない。1人の人間だ。心がある。

杏の気持ちを無視して、ただ欲しいと言い続けるお前は、一生なにも手に入らない。

手に入れる為に何かして、沢山を奪っても、残るのはお前の虚しさと傷つけた人達の恨みだけだ」



いつもと変わらない声の調子
淡々と話す泉

でも、ぐっと怒りを抑え込んで話しているのが、あたしにはわかる


「黙れよ…」


ハッと思い手を伸ばしたが間に合わなかった。
目の前の泉を0距離で殴るサトル

でも



泉は一歩も動かなかった
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