愛は惜しみなく与う⑥
あたしも東堂の娘なのに
誰1人振り返らない

まるで本当に存在しないみたい


この数時間で、誰とも目が合わないなんて


「吐き気する」


多くの人をすり抜けて、目指していたバルコニーへの出口。

あたしはそこにもたれかかり、息を整えた


慣れたけど、慣れへん


開き直ってるけど、開き直れてへん


あたしの感情はぐちゃぐちゃになる。



バルコニーへの出口には天井から床までの、大きなカーテンが付いている。
そっと開けて窓に手を伸ばそうとした


その時



壁にもたれて腕を組み、床を虚な目で見つめる1人を見つけた


その人は異様に浮いていた


髪はボサボサで、鈴の誕生日会だというのに、正装もしていない。
フードを深く被りぼーっとしていた


数秒見ていた


そして目があった



今日……

初めて人と目があった



咄嗟に逸らそうとしたけど、目があったその人の、顔色が悪くて、ついつい声をかけてしまった



「大丈夫?」
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