愛は惜しみなく与う⑥
キラキラ光るフロア

ジャズなんか流れて、生演奏もされている。みんな舞台を見て歓声を上げている

舞台で踊る人達を、見ていない人など居ない


そんな中、あたしと目があったその人の目は、あたしだけを捉えていた


でも一切口は開かなかった


失礼な言い方をすれば小汚い人やなと思った。フードからはみ出る毛もボサボサやしさ?
スウェットにパーカーやで?

異様やった



でも


あたしと同じような顔をしてるからさ。

今すぐにこんな所から抜け出したい


そんな風に見えた




「しんどいの?顔色悪いけど…」



そう尋ねてもじーっと見られるだけで返事はない。

だから、その人の手を取った



「風当たったら、しんどいのマシになるかも。秘密やで、ここ開いてるん」



自分を見ているようで放っておけなかった。

無表情であたしを見つめていたその人は、手を引っ張られると目をまん丸にして、されるがままあたしについて来た


カーテンの中に身を隠し、窓を開ける



ふわりと

庭の花の匂いが香る



「しんどいのマシになったら、中入りや?鍵はそのままでいいし」



無言のその人に声をかけて、あたしはバルコニーの手すりの淵に腰を下ろす
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