愛は惜しみなく与う⑥

フワリ

ほんとうに、あそこから解放される時は

重力なんて感じない


華麗に着地をすれば、ちょうど志木が走って来た


「杏様!もう先に行ったのかと思いました。遅かったですね。何かありました?」

「んーん。風気持ちいなって思ってただけ」


そこで出会った人のことには触れずに、志木から着替えを受け取り、あたしはみんなの待つ、薔薇の倉庫へ向かった



あの日きていたドレス

バルコニーから飛び降りる瞬間



サトルが持っていた写真は


その日のものだった



なんで気付かへんかったんやろうって?

気づくわけない


あの時の人の存在、オーラそのものが、サトルとは違うから


言葉を交わしたとも言えない、一方的にあたしが喋っただけの時間に、サトルになんの心境の変化があったんかは知らんけど。




「なんかな、今のサトルとは顔が違うねん。成長期とか思春期とかで顔が変わるとかそんなんじゃない。顔つきが違う」

「……整形?」

「ほんまそのレベル。ボーっとした顔してた気がする。悪いことしたら顔つき変わる?」

「まぁ、それは言われるよな。サトルがどんな事をしてきたか知らないけど、そういう見た目が変わったりは…あるのかも」あたしはどうしても、あの時いた人がサトルってことが信じられへん。

まぁ、なんかボロボロの見た目やったし、ちゃんとしたらそれなりになるんかな?
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