愛は惜しみなく与う⑥

一応家族と呼ばれるものがいた。
同じ家の中に住む人間がいた。俺を産み落とした人間もいた。
その人間には、やり返したことがなかった




殴られる罵声を浴びせられる。そんなことは日常的すぎて、何も思わない。

いつも通り静かになるのを待つ


でもいつしか、プツリと何かが自分の中で切れたんだ



気づいたら、同じ家に住んでいた人間は、全員床に倒れていた。


その時に思った


あぁ、今この瞬間が幸せかもしれないと


だって明日からあの声を聞かなくて済むから


それだけだったけど、モヤが晴れて、いつもよりもスッキリした。



でも大きな代償を負った。

人の顔が見えなくなった。


真っ黒で表情もわからない。自分以外の人間が、黒く染まった。

怖くはない。でも、いつも見えていた顔が見えなくなると、余計感情と言うものがわからなくなってしまった。



誰がこれ以上を教えてくれる?


そこから数年、ハッキリとした記憶はない


普通じゃないのなら、普通になろうと努力してみた


でも、いつまで経っても、みんなの顔が見えない

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