愛は惜しみなく与う⑥


人の顔が見えなくなってしまった。


真っ黒のモヤがかかって、男と女の判別もできないほどに、全員真っ黒だった



そんな世界に慣れた


そして、こころを少しでもスッキリさせるために、我ながら試行錯誤した。

気持ち悪いんだ

自分が理解できない感情を、他の人が自分に向けてくるのが。



だから

なんでもできた



この黒い顔が見飽きたその時に、死んでみようと思った。
死んだら感情も何もないんだろ?

すごく、自分に合ってるような気がした



今日も、真っ黒の人の中に紛れる


馬鹿みたいに笑う声
耳障りだ


ただ下を向いて、黒い人たちを見ないようにしていた。


明るいキラキラした世界
背景は輝いてるのに



人は全員真っ黒だ
今日も黒い人達で視界が溢れる



そう思ったその時



ある女の顔が目に入った


女だと分かった


周りの人は全員真っ黒なのに、なぜかその女だけ、色がついていた。顔が見えた。そして心臓が速くなった



もう何年も、人の顔なんて見てなかったから。黒い塊じゃない人の顔なんて…いつぶりだろうか



椅子に座り何か一点を見つめる女


そんな姿を携帯に収めた


幻覚かもしれない
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