愛は惜しみなく与う⑥
撮った写真にうつる人達は、相変わらず真っ黒だ。

けど、やっぱり1人だけ顔が見える。
表情がわかる

感情なんて知らなかったはずなのに


でも


こころが動いた



『俺と同じ顔をしている』



全ての音を、目に入るもの全てを拒絶するような、そんな顔


このざわめきは何だろうか


どうしてこんな事になってるのか


あれは誰だ



初めて知りたいと思った


血が沸き立つような感覚



『欲しい』



自分に芽生えた自我


今まで一度も何かしたいと思ったことも、欲しいものもなかった。自分の感情さえ動かなかったのに。



ただひたすらに、欲しいと思った



そこからは、鮮明に覚えている



人間はこうやって、行動を起こすのかと思った。目的が見つかった人生は、突然明るくなった。


いつ死んでもいいと思ってたのに、まだ死ぬには勿体無いと思った。


何かを感じれることが嬉しかった。
そうか。これが嬉しいか

そんな風に思って


周りの音を遮断し、目を閉じて、色づいたあの女を脳裏に焼き付ける
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