愛は惜しみなく与う⑥
「海沿いにな、何年か前に潰れた診療所があるねん。そこや。あたしが……半年前、戦ったのは」


目を閉じればあの場所が鮮明に浮かんでくる。
周りにあったものすべて覚えている

その時の会話も全て覚えてる


そして頭に映像が流れて、胃から何かあがってくる感覚になり、お腹を抑えて床にしゃがむ


「杏?大丈夫か?ごめんな」


その後ずっと泉は、あたしを抱きしめたまま謝り続けた

ほらな

こうなるからさ
誰にも見せたくなかってん

ぐちゃぐちゃで、いつものあたしで居れる保証なんてないから。
みんなが大事にしてくれた杏のままで、この事件を終わらせることはできひん。


しんどいな



「無理やねん。思い出しても吐きそうになる。まともに精神保ってれる気がせんねん。みんなにそんな所見られたくない」

「うん、ごめんな…ごめんな」


泉は悪くないのにね
なんで謝らせてるんやろか


「あたしは弱い。一回生きることを諦めたからさ。これ終わった後、普通に生きていけるんかも分からへん。嫌になりそうで怖い。もう、全部怖いねん」
< 375 / 430 >

この作品をシェア

pagetop