愛は惜しみなく与う⑥
あの時あたしは、その手を取った

不覚にも触れたいと思った


今ここでもっかい泉の手を取れば…もう全部崩れる。東堂も…母上も…
あの春にした決意も


わかってる

わかってるよ


でもさ


泉が笑うから

そんな笑顔で待たれたらさ

無理やん

突き放せへんもん

こんなややこしい女やのに、なんでそこまでしてくれるんやろ


そっと手に触れた瞬間、あたしの手をガッと掴み引っ張る

ベッドの上で
泉に雪崩れ込むように倒れた

パッと目を開ければ

真下に泉の顔が


離れようと思って身体を動かすけど、腰に泉の手が回り動けない


「い、泉」

「次勝手にいなくなったら、まじで監禁するからな?」


ほんまに泉ならしそう
肘を泉の顔の隣について上半身だけ身体を起こす


「離してくれへん?」


顔も近いし、身体はくっついてるし!そのくせあたしの顔は泣きまくったから、きっとブッサイクやし、こんな近距離で泉の綺麗な顔みてられへん!


アタフタするあたしの頬に泉の手が触れる

そのまま泉の手は、耳の方に上がってきて、重力に従うあたしの髪をかきあげて、耳にかけた
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