愛は惜しみなく与う⑥
あ…




キスする


そう思った

ハラリと落ちる髪を、耳の後ろで押さえられて、あたしの顔を邪魔するものは何もない


下に寝転がる泉の目を見て、逃げれへんことがわかった

そのまま少し頭を押さえられて、あたしは泉に吸い込まれるようにキスをした


なんなんやろな

もう自分でも分からへん


けどそれが自然やった



誰かこんな時に何してるねんってつっこんでくれへん?
いつもなら自分で自分をつっこんでるねんけどさ。今はそれどころじゃなくて

結構絶望的な立場でさ
もう、どうしようもないところまできてて

大事にしてた妹は、実は復讐相手と組んでたとかさ

なんかもう

色々絶望的なはずやねん



けど、一瞬頭からそれが吹っ飛んだ


1秒やったかもしれへんし、5分くらい経ったんかもしれへん

どれくらい、そうしてたか分からへん


でも泉が愛おしそうにあたしの名前を呼ぶからさ。
杏って呼んでくれるから


いつのまにか、さっきまで下にいた筈の泉が、あたしの上に居る




あれ?
  
目を開ければ、上からあたしを覗き込む泉がそこに。
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