透明な世界で、ただひとつ。
「目が...見えない...」
何度、瞬きしても。
“視界”にかかった霧のような、もやのような、影のようなものが取れない。
「瑞希、擦っちゃだめ。」
無意識の間に目を擦っていた私の手を堺が掴んで止める。
「見えない、見えないよ。どうしよう。」
「瑞希、一旦落ち着こう。
落ち着いて、先生のところ戻ろう。」
私は堺に連れられて病院の中へと引き返した。
数分前まで座っていた待合室のベンチにまた座る。
「瑞希ちゃん!」
少し向こうで先生の声がして、ぱたぱたといくつかの急いだ足音がする。
「瑞希ちゃん、確認するからちょっと触るよ。」
足音は私の目の前で止まり、下から声がする。
私が頷くと、下まぶたが引っ張られる感覚がして、先生の体温が私に流れ込んでくる。
聞きなれたライトがつけられる音がした。