透明な世界で、ただひとつ。


目が見えない。

視界に映像がない。

光がない。



何枚も何枚も、すりガラスを重ねたような。

白でも黒でもない。



コンコンとドアがノックされる音がする。



「瑞希ちゃん、大丈夫?」



先生の心配するような声がする。



「先生、今ね私には見えてるものがあるんだよ。」

「え?」

「いつか聞いたじゃん?
目が見えなくなったら何が見えるの?って。

私にはね、透明な世界が見えてるよ。」



組み合わせた指を組みかえると、乾燥した指と指が触れる音がした。



「大丈夫、先生。

私、悲しくないよ。」



だって、私には凄く綺麗な世界があるから。

ここは、私だけの世界でしょ?



そう思うと、ネガティブな思考にはならなかった。

それこそ、笑顔になれるぐらい。



「すっごく、綺麗だよ。」

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