透明な世界で、ただひとつ。


「堺蒼汰、瑞希のこと傷付けたりしたら、地獄の果てまで追いかけてでも殴りに行くからね。」



私と話すときよりも少し低い柚香の声が鼓膜を揺らす。



「じゃあ、瑞希。またね。」

「あ、柚香!お母さんに何か言うことないの!」



ぱたぱたとローファーが床を蹴る音が少しずつ遠ざかっていく。



「瑞希の妹って1年の畑柚香だったんだな。」

「あぁ、そう。言ってなかったけ。」

「初対面でフルネーム呼び、あんな好戦的なセリフ叩きつけられたの初めてだよ。」



堺が知っているということは、やっぱり柚香は目立つのだろう。



「堺くん、うちの子が失礼なこと言ってごめんなさいね。」

「いえ、お姉ちゃん思いの妹さんだと思いますよ。」



その後、杏子さんと梓さんが仕事の合間に来てくれた。

あの独特は匂いからするに、着物のままだったのだろう。



慣れないベッドで明かした夜、見た夢は幸せなものだったように思う。

< 106 / 115 >

この作品をシェア

pagetop