透明な世界で、ただひとつ。
「堺蒼汰、瑞希のこと傷付けたりしたら、地獄の果てまで追いかけてでも殴りに行くからね。」
私と話すときよりも少し低い柚香の声が鼓膜を揺らす。
「じゃあ、瑞希。またね。」
「あ、柚香!お母さんに何か言うことないの!」
ぱたぱたとローファーが床を蹴る音が少しずつ遠ざかっていく。
「瑞希の妹って1年の畑柚香だったんだな。」
「あぁ、そう。言ってなかったけ。」
「初対面でフルネーム呼び、あんな好戦的なセリフ叩きつけられたの初めてだよ。」
堺が知っているということは、やっぱり柚香は目立つのだろう。
「堺くん、うちの子が失礼なこと言ってごめんなさいね。」
「いえ、お姉ちゃん思いの妹さんだと思いますよ。」
その後、杏子さんと梓さんが仕事の合間に来てくれた。
あの独特は匂いからするに、着物のままだったのだろう。
慣れないベッドで明かした夜、見た夢は幸せなものだったように思う。