透明な世界で、ただひとつ。


卒業式当日。

前日よりも春らしい暖かい空気が私を包む。



「畑瑞希。」

「はい。」



体育館壇上。

空気のような、もっと影の薄い存在だった私が初めて多くの人の視線を集めているのだと思う。



柚香の補助を受けながら壇上へ上がり、白杖を鳴らしながら校長の前へ進んだ。



春の空気をいっぱいに吸い込んだ。

3年間、惰性と諦めで過ごしたこの場所であれ、思い入れがないと言えば嘘になる。



また、この日を笑って話せる日がすぐに来るから。

こんな形でも卒業証書を受け取れて私は満足だった。



「この世界の色は何色ですか?」



私は壇上からの階段を降りながらそう呟いた。



3年前に始まった高校生活は今日で終わり。

始まりと終わり、それはやっぱりセットなの?

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