透明な世界で、ただひとつ。
「嫌いになることある?」
「んー、俺とはあんまり似てなくて、勝手に人のもの持ってくし女らしさなくてガサツだし。
喧嘩してウザいって思うこともあるけど、本気で嫌いって思ったことはないかな。」
柚香は“やっぱ”って言った。
きっと前から私が嫌いなんだろう。
嫌われて当然、でも堺のように“本気じゃない”って言ってくれればどんなにいいか。
「え、何泣いてんの。俺なんか言った?」
「ううん、なんでもない、ごめん。」
目に見える世界にはもう興味も何もないって思ってたけど、違うのかも。
柚香の笑った顔が見たいかも。
「ほら、ハンカチ。あー、もう俺が泣かしたみたいじゃん。」
「やっぱ堺のせい。」
「え、ひどくない?」
校舎内では授業の終わりを知らせるチャイムが鳴っていた。