透明な世界で、ただひとつ。


「この前ちょっと調べたんだけど、海外の大学でも試験はあんま変わんないんだって?
悪いな、無理に連れ出して。」

「いいの、やることはこっちの指定校と変わんないから。」



嘘をつくのも、やっぱり少し辛いものなのかもしれない。



しかも、相手が堺だから。

ちゃらちゃらしてるって思ってたけど、ホントは単純で、真っ直ぐで、ちゃんと目を見て本気で嘘偽りなく話してくれる、本当にいいやつ。



「ねえ畑。」

「何?」



名前を呼ばれて私は堺の顔を見る。

堺は私の胸下まで伸びた髪に触れようと手を伸ばす。



「畑瑞希。」

「だから何って。」

「なんでもない。」



これだけ名前呼んどいて何もないって酷い人だ。



「瑞希。」



突然呼ばれた下の名前に思わず手を止めた。



「瑞希。」



私の髪に触れながら私の名前を呼ぶ彼は本当に意地悪な人だ。

でも、そんな彼に惹かれてはじめている自分がいるのも事実だ。

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