透明な世界で、ただひとつ。
「瑞希ちゃん、アメニティの歯ブラシがそろそろなくなるんだけど...」
「あ、歯ブラシなら一昨日発注したんで明日には届きますよ。」
マグカップでココアを飲みながら休憩をとる梓さん。
彼女は杏子さんの娘さんで今は仲居をしている。
サバサバした性格、着々と仕事をこなす彼女だが、今手に持たれているのはピンクや白のレース柄のマグカップ。
「あ、明日の予約表の最終版は?」
「印刷して受付にはもうあります。
梓さんの個別分必要だったら印刷しますけど。」
「あー、大丈夫。受付に見に行く。」
梓さんは積極的に私に仕事を振ってくれて、休憩中には話しかけてくれる。
「他には何かあります?」
「ないかな。
前までいた人の何倍も使えるわー、やっぱ高卒も侮れないよね。」
私はそうですか、と笑っておいた。