透明な世界で、ただひとつ。
「瑞希、こっち。」
呼ばれた方を見ると堺が写真を撮ろうと内カメにしたスマホを掲げていた。
ちょっと驚きつつもシャッター音に合わせて口角をあげた。
「瑞希の眼鏡姿ゲットー。」
「は、何、それが目的?」
「うそうそ。送っとく。」
こんなことなら、と心の中で悪態をついていても送られてきた写真を見て少し頬が緩む。
手袋の中も確実にあったまった頃、列の先頭ももう目前になり、ようやく得た温かさを手放した。
お財布から五円玉を探しだして手の中で握っていた。
鈴を目の前にして賽銭箱に小銭を投げ入れて二礼二拍手。
どこかで聞いたどこの誰かを名乗らないと神様も叶えられないという情報に期待して目を閉じ心の中で名乗ってみる。
――今見ているこの世界が消えてしまっても、何かひとつ、かわらないものをください。