透明な世界で、ただひとつ。
告知されてから3日後、ようやく出勤が出来て杏子さんと梓さんに話が出来た。
2人は真剣に話を聞いてくれて、これからのことについてもたくさん考えてくれた。
「瑞希、旅館内を見て回ろう。
目に焼き付けてほしい、この場所を。」
梓さんの提案で旅館の中を見て回ることになった。
梓さんの案内で館内を回る。
普段行かない表玄関や客室、売店、厨房。それから中庭に来た。
「ここがうちの名物の庭。
創業した頃から大切に手入れされてて、時々雑誌とかネット記事とかにも載ったりするの。」
素朴でありどこか荘厳さを感じさせるその庭に降りた。
少し回ってから梓さんは中央にある大きな木の前で立ち止まる。
「これが梅の木。
うちの旅館の名前の由来にもなってるんだ。
いつもならもう咲き始めてるんだけど、今年はまだみたいね。」
薄ピンクに色づいた蕾が枝の先に沢山見える。
まだ咲かないその蕾に目を奪われていた。