透明な世界で、ただひとつ。
家に帰ると、リビングからは母のすすり泣く声が聞こえてきて、そのまま自分の部屋に行った。
最近は父や母とも話す機会も減り、柚香については姿すら見ていない。
白杖だったり、点字の本が増えた自分の部屋で1人でため息をつく。
最近は毎日、朝起きて目が見えるかを確認する。
ずっと見えなくなっていればいいのに、と思っていたのに今は見えていることに安心している。
持ち物の輪郭もぼやけてきて、眼鏡の意味も薄れてきている。
18の誕生日を、まだ目が見えてる状態で迎えられている今、こんなわずかな視力も本当に大切で、この景色が本当に愛おしい。
ぼんやりと写る色・形と記憶を照らし合わせて服を選んでいると、スマホの通知が鳴り、画面には堺の名前。
これはもうすぐ着くよの合図。
私は慌てて着替えて部屋を飛び出した。