透明な世界で、ただひとつ。


「楽しんでくれたみたいでよかった。」



堺がそう言って笑ったのは、昼食を取りに訪れたいつものカフェでだった。

冷たい風が吹きすさぶのを窓際の席で聞きながらナポリタンをフォークに巻く。



ケチャップの匂いが私の食欲をかきたてる。




「最近さ、匂いにも敏感になったんだよね。」

「そうなの?」

「視覚の情報がなくなって、他のものに頼らないと暮らしていけないからね。」



音で物との距離や人の存在を確認して、匂いで出来事や人が誰かを認識する。



「生まれた時から目の見えない人はさ、視覚なしで暮らすために音とかで認識するのが体に染み付いてるけど、私はこれから慣れていかないと。



...こんなこと言ったら失礼だよね。

でも私が頑張んないといけないのは変わらないか。」



そう言って笑ってナポリタンを口に運んだ。

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