透明な世界で、ただひとつ。
思い出し笑いをする私に堺は困ったように宙を仰ぎ見た。
「そろそろ行こっか。」
私のマグカップの底が見えた頃、堺はそう言って立ち上がった。
私も立ち上がり、白杖を持って堺の差し出す腕を掴む。
お会計を済ませて外に出た。
冬の冷たい風から顔を守るようにマフラーに顔をうずめる。
「ね、堺。海の方行かない?」
「いいけど、あんまりゆっくりしすぎると家帰る時にはもう暗くなるよ?」
私が頷くと、堺は方向を海浜公園の海際へと変えた。
「ここ、座ろっか。」
私は堺の隣、砂浜へと続く小さな階段に腰掛けた。
「寒いね。」
「そりゃ2月だもん、それ分かってて来たんじゃないの。」
「それもそっか。」
私は声を出して笑った。
「瑞希ってちょっとわかんないや。」
「そう?」
堺の困ったように言った言葉にも笑ってしまった。