花屋敷の主人は蛍に恋をする
「1つ、約束出来た………!」
向こうの部屋にいる樹に聞こえないほどの声で、菊那は跳びはねて喜びたい気持ちを発散した。
紋芽の事件が解決した後も、菊那は彼との関係が終わってしまう事を恐れていた。けれど、今回の菊那自身の問題を解決してくれたことで、また同じようにもう会う必要もなくなってしまう。菊那が花屋敷を訪れた目的は、向日葵の種を咲かせてもらうためだった。それは最も大切な事だったけれど、それも別の形、いや、最高の結果で終わりを迎えた。そうなると、またもや彼との最後の日を考えてしまう事になっていた。
けれど、彼が紅茶を飲ませてくれると言ってくれた。彼にとって社交辞令だったのかもしれない。そうだとしても菊那は嬉しかった。
次がある、それだけで今は幸せだと思えた。
幸い、シワにならない素材の洋服だったので、身なりを整えて、化粧直しをしてからレストランへと向かった。
予想通りに菊那が今までドラマや映画などでしか見たことがない場所だった。
照明が少し落とされ、テーブルにあるキャンドルがほんわりとした優しい光を発して、ムードある雰囲気を演出してくれる。そして、高層階にあるレストランなため、夜景も楽しめる。
他のお客さん達はスーツやドレスのようなワンピースを着た女性などがたくさんおり、菊那は場違いではないかとビクビクしてしまう。
すると、菊那の気持ちが伝わってしまったのか「結婚式やパーティーがあったのかもしれませんね。着飾った方が多い。……連休ですと賑やかですね」と、さりげなくフォローをしてくれる。
その言葉だけで、菊那の緊張はほぐれてしまうのだ。彼と一緒ならば大丈夫、そう思えるのだ。