花屋敷の主人は蛍に恋をする
21話「ファーストキス」
21話「ファーストキス」
花枯病は先天性の人が多い。
突然発症してしまう事は稀だという。
だからこそ、幼い頃ほど草花の感触を知りたいと思って、手を伸ばしてしまう。
そして、触れた時は冷たくて、何故か安心する心地に笑みが浮かぶ。けれど、それも一瞬の事。まるで、草花の生気を吸い取るかのように、花はみるみる枯れていき鮮やかな緑だった草や綺麗な色をした花は茶色く、そしてカサカサに枯れてしまう。
それを見た周りの人たちは「こわいっ!」「化け物みたい!」と、怖がって逃げていく。
その言葉は子どもにとっては大きな傷を残すものだというが、菊那はその話しを聞くたびに心が痛くなる。
そして、花枯病の人の言葉で心に残っているものがあった。
「周りの人よりも自分が1番化け物だとわかっています」
菊那は、彼の表情を見つめながらそんな事を思い出してしまい、樹と同じように顔を歪めた。
けれど、せっかくの2人での食事なのだから、と菊那はすぐに笑顔を見せて樹に話しを掛けた。
2人きりでこんなところで食事など、とても贅沢な事だ。それに彼には笑っていて欲しい。
「ごめんなさい。その………何だか暗い話しになってしまいましたね。あの、樹さんにプレゼントするものに刺繍をするとしたら、どんな物がいいでしょうか?1番好きな花とかありますか?」
「…………そうですね。特に考えたことがなかったです。菊那さんが選んでくれたものでかまいません。私に似合う花を」
「………樹さんに似合う花なんて、沢山あるので迷いますね」
「………そうだといいのですが………」
樹はその後、ジッと何かを考えながらシャンパンの瓶を見つめていた。
そして、独り言のように言葉を溢した。