花屋敷の主人は蛍に恋をする
部屋に戻ると樹は菊那をソファに座らせてから水を準備してくれた。冷たい水を飲むと次第に体の熱が落ち着き、ふんわりとした感覚もなくなってきた。
そんな様子を見て、樹は安心したようだった。
「少し顔色がよくなってきましたね。先にお風呂を使ってください。もう沸いている頃だと思うので」
「そんな訳にはいきません!樹さんが先に使ってください」
「いいんですよ。気にしないでください。レディーファーストです。それと、ベッドは菊那さんが使ってください。私はこのソファで十分なので」
「だめです。それは絶対にダメです!」
「女性をソファに寝せるはずありませんよ。気にせずに使ってください」
やはり、先ほど「勘違いしてしまう」と思ったのは、本当に勘違いなのだろうか。
菊那はてっきり2人でベットを使うと思っていたのだ。もちろん、何かある事を想像したわけではない。(………まぁ、少しはしてしまったけれど………)
樹の熱や吐息を感じながら、ドキドキして眠れないのだろうか。彼の寝顔を見れるのだろうか。少しは特別な存在になれるのではないか。
そんな期待があったのだ。
けれど、それは自分だけのものだったのだ。樹は始めからそのつもりはなかったのだろう。
彼の言葉を聞いて、菊那は心に何か小さいけれど鋭いものが刺さったような気がした。
そこからは、いつもの菊那ではありえない行動だったかもしれない。お酒の力を借りてしまったのだろう。
気づくと、菊那の口は勝手に動いていた。