花屋敷の主人は蛍に恋をする
樹は、菊那の手を取ると、自分の頬へと近づけた。菊那の手が彼に導かれるままに、彼の少し熱くなった頬に触れられる。
「………樹さんに、触れてもいいんですか?」
「もちろんですよ。触れて欲しいと思っています」
「…………」
菊那はゆっくりともう片方の手を伸ばし、彼の顔を手で覆った。両手に彼の肌の感触を感じる。
艶があり、白く綺麗な肌。少しだけ熱く、その熱が手に移ってしまうようだった。
「もう1回、キスをしてもいいですか?」
「…………それをしたらおしまいじゃないですよね?」
「今日はもう何もしません。けれど、同じ気持ちを確かめあった男女は、恋人になるものだと私は思っていたのですが………」
「………信じられない……私が樹さんと恋人になるなんて……」
「では、それを実感してください。今から……そして、これからも………」
「………はい………」
先ほどより少しだけ長いキス。
彼との2回目のキスは、涙の味がした。
いつの間にか自分は涙をこぼしていたのだと、菊那はその時にやっと気づいたのだった。
それから、2人は別々にお風呂に入った後、同じベットで眠った。
菊那は、とても恥ずかしく緊張してしまっていたけれど、樹が優しく抱きしめてくれた事で、初めは絶対に眠れないと思ったが、彼の鼓動が全身で感じられると心地よさから、すぐにウトウトしてしまった。
同じバスローブを着て、同じシャンプーの香りがして、そして同じベットで眠る。
好きになった人と「同じ」がどうしてこんなにも嬉しいのか。
菊那は、そんな気持ちを久しぶりに感じる事が出来たのだった。