花屋敷の主人は蛍に恋をする
紳士的な彼だったが、付き合いはじめてわかった事がある。それは、とても距離が近いという事だ。菊那に気を許してくれているからなのか、ソファに座る時も迎えよりも隣りを選ぶし、歩くときも手を繋いだり腕をからめて歩くことを求めてくれるのだ。
甘い雰囲気になる事も多く、突然キスをしたり、頭を撫でてくれたりもする。けれど、キス以上の事は今のところ何もない。付き合い始めたばかりという事もあってから、彼の屋敷に泊まったとしても、菊那を抱きしめて眠るだけだった。
「次のデートはどこに行きますか?少し遠出して、バラ園に行きますか?」
「バラ園もいいですね!……ですが、少し温かくなったので海に行きたい」
「わかりました。では近くの海に行って、水族館にも寄りましょう」
「やった!楽しみです」
優しい年上の樹。
菊那の昔の辛い記憶から開放してくれた恩人でもあり、今は恋人。
こんなにも素敵な恋人がいると、もう離れたくないと思ってしまう。
もちろん、自分から離れるつもりもない。いつも一緒に居たいと思っているぐらいなのだから。
菊那は、いつまでも樹の優しい笑みを傍で見続けていたい。そう強く思った。