花屋敷の主人は蛍に恋をする
23話「シーアネモネ」
23話「シーアネモネ」
春も終わりが近づいてきたのか、少しずつ暑いぐらいの日差しが照りつけていた。
菊那は薄手のロングカーディガンに、タンクトップとジーパンにローヒールのサンダルで樹の屋敷へと向かっていた。樹は用事があるようで迎えに行けないと連絡が入ったので、菊那は久しぶりに歩いて彼の家へと向かった。
彼と恋人になって数週間が経っている。
それでも、こうやって樹とデートをする事が今だに信じられなかった。
町を歩けば老若男女に視線を向けられるほどに、容姿が整った彼。それに性格も優しく、知的でもあり、そして甘い事も好きでいてくれる。恋人として、最高の相手だと思っている。
でも、気になっている事もある。
付き合って間もないので、仕方がないとは思うが、樹は自分の事をあまり話してくれないのだ。菊那の話を楽しそうに話してくれるが、自分の事はあまり話さない。
もちろん、花屋敷の秘密だってわからないままだ。
付き合えただけでも、大切にしてくれているだけでも幸せな事なのに、次を求めてしまうのは贅沢すぎるとわかってはいた。
けれど、やはり彼を知りたいと思ってしまうのだ。