花屋敷の主人は蛍に恋をする
「今日はいろいろ自分から聞いてみようかな」
そんな思いは思わず言葉に漏れてしまう。菊那は苦笑いを浮かべなから、袋小路への道へと曲がった。
すると、予想しなかった樹の姿が目に飛び込んできた。
「い、樹さんっ!?」
「こんにちは。時間ピッタリですね」
細身のパンツに黒のブルゾンジャケットという全身真っ黒な今まであまり見たことがないラフなスタイルだった。
そして、彼の隣にあるのはいつもの車ではなく、大型バイクだったのだ。黒の車体と機械部分がシルバーのシンプルなデザインだったが、とても大きい。
菊那は驚き目を大きくさせながら彼に近づくと、樹はクスクスと笑っていた。
「思っていた以上の反応をしてくれるので嬉しいです。今日は天気もいいですし、近い場所だったのでバイクで出掛けようと思ったのですが……いかがですか?」
「だから、動きやすい服装で来てくださいって連絡があったんですね………それにしても、樹さんがバイクに乗るなんて意外でした」
「そうですか?春や秋の過ごしやすい時期は、一人で遠出するんですよ。風がとても気持ちいいですよ。………怖いですか?」
「いえ……始めてなので、少し緊張しますが、乗ってみたかったので嬉しいです」
「それはよかった」
菊那はキラキラした視線でバイクを見つめる。これに跨がり長い手足でバイクを操縦する姿は本当にかっこいいのだろうなーと想像してしまう。ヘルメットを被ってしまうのが、少し残念でもある。
菊那の荷物を最低限に纏め、残りは屋敷に置いておく事にした。彼の荷物は肩から斜めにかけるウエストバックだった。