花屋敷の主人は蛍に恋をする
「菊那さんは普通に話してもらっていいのですよ?」
「え………?」
「私は昔から敬語が癖なので、敬語を使ってしまいますが……菊那さんは、普通に話していいんですよ?」
「でも……菊那さんの方が年上ですし」
「でも、恋人です。では、私もさん付けはやめるので、菊那さんも普通に話してみてください。そうですね………菊那ちゃん………菊那…………の方がいいですか?」
いつもと違う呼ばれ方というのは、気恥ずかしくも嬉しいものだった。
彼がとても優しく自分の名前を呼んでくれる。さん付けでも嬉しかったけれど、身近な呼び方は、菊那をドキッとさせた。
「き、菊那、でいいです」
「わかりました。では、菊那。普段のように話してみてください」
「あ、あの!普通に話すので………じゃなくて、普通に話すから、さん付けでもいい……かな?」
「………わかりました。ではそうしましょう。慣れるまで少し照れくさいですが、すぐに馴染むはずです」
「は………うん、そうだね」
少しずつ少しずつ、歩み寄って近くなる。それは、身体的な距離だけではない。
言葉は見えないけれど、その言葉が近くなるも、自然と距離も近くなる気がする。
そうやって1つずつの新鮮が、普通になっていけばいい。
願わくば、もっと早く距離が縮まりますように、と菊那は心の中で願った。